「社員からの残業代請求を防ぐ方法」

1 時間外労働:25%以上
2 深夜労働(午後10時~翌朝午前5時):25%以上
3 時間外+深夜労働:50%以上
4 休日労働:35%以上
5 休日+深夜労働:60%以上

さて、これは何の数字でしょうか。経営者の方はあまり見たくない数字、残業代の計算式ですね。 これで計算すると、相当な金額になりますが、IT企業の経営者の皆さんは、これを全額社員に支払っていますか。全額払っていたら、会社が潰れてしまいますよね。

そもそも、この残業代の仕組み自体、ホワイトカラーの社員には、適切ではありません。仕事の成果さえ出してくれれば良いわけであり、仕事にかかる時間は短いほうが良いでしょう。

この残業代の計算式を定めた労働基準法は、もともと、工場での生産ライン作業を想定しています。社長の意識として、月給はトータルの金額だと思います。そして、昔は社員もそれが分かっていたので、残業代を請求してくることはあまりありませんでした。

しかし、今は違います。終身雇用制が崩れて、社員の意識も変わりました。今の社員は、残業代請求の権利をしっかり使ってきます。しかも、ネットを見れば、残業代の請求の仕方が、懇切丁寧に解説されています。

「名ばかり管理職」という言葉は、聞いたことがあると思います。労働基準法上の「管理監督者」に当たる社員には、残業代(時間外割増賃金)が不要であることから(深夜割増賃金は必要ですが)、管理職には残業代を払わない運用にしている会社が多いのですが、世の中の管理職のほとんどは、労働基準法上の「管理監督者」に当たらないため、実は残業代を払わないといけない、という問題です。

では、「名ばかりSE」という言葉は、聞いたことがありますか。私が勝手につけたので、皆さん知らないと思います。実は、平成25年に、大阪高等裁判所が、システムエンジニアの残業代請求を認める判断を示したのです。裁判を起こした社員は、システムエンジニアとは名ばかりで、実際はセールスエンジニアの仕事もあれば、プログラマーの仕事もあり、納期やノルマに追われていました。会社はこの社員に、残業代を払わなくていい「裁量労働制」を適用していましたが、裁判所はそれを認めなかったわけです。

このように、今は管理職、SEも含めた社員から、残業代を請求される時代なのです。

では、IT企業を残業代請求から守る方法は、あるのでしょうか。 はい、残業代が発生してしまったら、払わなくてはいけませんが、そもそも残業代を発生させなければ、払う必要はありません(当然ですね)。

そのためには、給与体系を変更し、基本給を減額すると共に、所定の残業時間に対応した残業代を定額で払うのが、一番確実です。
ただ、所定の残業時間を、実際の残業時間を超えた場合は、その分の残業代は払わないといけないので、注意してください。
また、基本給の減額は、就業規則の不利益変更となり、従業員の同意が原則として必要なので、きちんと同意を得るようにしてください。 ちなみに、「年俸制を採用すれば、残業代を払わなくていい」というのは誤解です。

① 所定労働時間を超えた想定労働時間分の残業代が年俸に含まれている
② 上記残業代が基本給と区別されている
③ 実労働時間が、想定労働時間に収まっている

この3つの要件を満たさないと、残業代を払わないといけません。
また、「システムエンジニアは、裁量労働制だから、残業代を払わなくていい」というのも誤解です。
裁量労働制が認められるためには、仕事のやり方や時間配分について、上から指示を受けずにできる必要がありますが、中小企業のSEで裁量労働制が認められる可能性は、高くないと思います。