契約書を作らないと損をする

「あの時に、ちゃんと契約書を作っておけば・・・」

契約のトラブルで私に相談される社長様は、皆さん、必ずこの台詞を言います。

よく言われることですが、日本人は、「予防」にお金を使うことを嫌います。しかし、予防にお金を使った人ほど、トータルコストがかからずに済みます(健康診断と病気の関係と一緒です)。

言った言わないの争いになった時に、判断の基準となるのが契約書です。契約書を作っておかなければ、「言わなかったこと」にされても、反論できないのです。

 

「契約書に何を書いても、大切なのは取引先との信頼関係ではないか・・」

信頼関係があるうちは、契約書に何が書いてあっても、トラブルにはなりません。

例えば、システム開発委託契約書で、開発されたシステムの「著作権」について、単に「ユーザーに譲渡する」となっていたとします(そんな契約書を、時々目にします)。このシステムが、完全に新規のシステムであれば(そして、ベンダーが今後、このシステムをベースに、新たにシステムを開発することがなければ)、それでも構わないでしょう。ですが、このシステムの中に、ベンダーが以前に開発して、他のシステムでも使用している汎用プログラム、ルーチン、モジュールなどが組み込まれていた場合は、どうでしょうか。

契約書のとおりなら、それら汎用プログラム等の著作権についても、ユーザーに譲渡されてしまいます。

そうなれば、ベンダーは、今後は、それら汎用プログラム等を自由に使えなくなってしまうのです。もちろん、互いに信頼関係がある内は、ユーザーとしても、そんな厳しい事は言ってこないでしょう。しかし、ひとたびトラブルになれば、ユーザーとしては、交渉材料として、汎用プログラム等の著作権が自社にある、と主張してくるでしょう。

信頼関係が壊れ、紛争になった時に、判断の基準となるのが契約書です。契約書に、「システムの著作権はユーザーに譲渡する」と書いてある以上、これに反論をすることはできないのです。

私が、契約書の大切さをクライアントに説明するときには、こう言います。
「信頼関係が壊れた時に契約書を使うのに、今は信頼関係があるから契約書の内容は気にしない、と言うのは、身体が悪くなった時に保険を使うのに、今は健康だから保険の内容は気にしない、と言うのと同じですよ。」

 

「損害賠償額の上限規定のおかげで、損害賠償が少なくて済んだ!」

ある大手レンタルサーバー会社が、大規模なシステム障害を起こし、サーバー上の顧客のデータを大量に消失させる事件がありました。私の顧問先で、ECサイトを運営している会社が、ここのレンタルサーバーを利用していたため、事件によって、サイトデータが消失してしまい、大変な損害になりました。顧問先の社長様から、レンタルサーバー会社への損害賠償請求の相談を受けた私は、何とかできないかと考え、そのレンタルサーバー会社の、サービス利用規約を確認してみました。すると、利用規約の中に、損害賠償額の上限規定がありました。「損害賠償額の上限は、ユーザーがこれまで支払ったサービス利用料の合計額とする」、という規定です。

このような損害賠償額の上限規定は、システム開発やシステム利用契約の契約書・規約には、よく盛り込まれています。そして、基本的には有効です。私自身も、IT企業から、契約書や利用規約の作成・チェックを依頼されたときは、必ずこのような損害賠償額の上限規定を入れています

レンタルサーバー会社の事件では、この損害賠償額の上限規定のせいで、顧問先の社長様は、損害をほとんど回復できませんでした。一方、レンタルサーバー会社は、大勢の利用者からの莫大な損害賠償請求を防ぐことが出来ました。契約書や利用規約がどれだけ重要なのか、よく分かる話です。

私は以前、「経営を立て直してもらえたら、株式を譲渡する。」というオーナーの要請を受けて、IT企業の社長に就任して、頑張って何年も働き、見事会社の業績を回復させたにもかかわらず、そうなった途端にオーナーから、「株式を譲渡するなんて約束した覚えはない。」と手の平を返された、という事件の相談を受けました。その社長様は、オーナーの言葉を信じて、特に契約書を作成することもなく、会社の業績を回復するために、本当に一生懸命働いたのでした。しかし、最初に要請を受けた時に契約書を作成しなかった、ただその一点だけで、何年間もの頑張りを、ひっくり返されてしまったのです。

きちんと契約書を作っておくことで、トラブルを未然に防げたり、最小限に抑えることができます。 「あの時に、ちゃんと契約書を作っておけば・・・」ということがないように、契約書を作成しておくことをおすすめします。